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広島高等裁判所 昭和58年(行コ)4号 判決 1985年7月10日

控訴人(原告) 広島日産モーター株式会社

被控訴人(被告) 広島市西区長

主文

原判決を取消す。

被控訴人が、控訴人に対し、原判決別紙目録記載の各土地につき昭和五五年八月一一日付でなした地方税法第六〇三条の二第一項の規定に基づく免除認定申請に対する否認処分(広西課第七六六号)はこれを取消す。

訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

主文同旨。

二  被控訴人

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

第二当事者の主張

次のとおり補足するほか原判決の事実摘示のとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決一七枚目表末行の括弧書き部分を削除する。)。

一  控訴人の主張

特別土地保有税は、土地の譲渡所得税(所得税・法人税)とともに一方において土地の仮需要の抑制を行い、他方において土地の供給促進をはかることを意図するものであつて、換言すれば、遊休土地に対し、重課することによつて、右の土地政策に資そうというものである。法(地方税法)六〇三条の二第一項は、右の趣旨からいつて有効に土地利用が行われている土地に対しては特別土地保有税を免除しようとするものである。その場合、法としては具体的な免除要件について画一的な基準を設定しなければならないが、その画一的な基準の法的意味は、あくまでこの税の趣旨に照らして合理的にとらえられねばならない。施行令(地方税法施行令)五四条の四七第一項は、法六〇三条の二第一項一号の基準として、(1)その構造及び工法からみて仮設のものでないこと、(2)その利用が相当の期間にわたると認められること、を規定している。本件土地が右の両基準を充足するものであるかどうかは、いずれも免除認定基準日を中心として相当期間にわたつて客観的に認定されなければならないが、右の両基準は、要するに当該土地利用が「仮装」でないことを要求しているものにすぎない。本件の場合、基準日(昭和五五年一月一日)現在控訴人が所有していた旧建物は取壊されたが、それは控訴人の事業により適合した建物を建築するためであり、事実、新建物が建築され、建築後は当該建物は控訴人の事業活動に利用されている。旧建物の取壊しは、本件土地をより一層、有効に利用するためのものであり、そのことが容易に認定しうる諸事情が存在した。前記(1)の「その構造及び工法からみて、仮設のものでないこと」の要件における「その」は「控訴人の当該土地利用について同一性を有する建物」の意味に解すべきである。法的意味としては、賦課期日現在に存在していた建物と物理的に同一である必要はなく、効用的に同一性のある建物であれば足りる。さまざまな事業活動の過程において、建物や機械等の設備の取替えが行われることは日常的なことがらである。旧建物の取壊し・新築工事自体が控訴人の事業活動であり、特別土地保有税の意図する「土地の有効利用」の一形態である。問題は控訴人が本件土地を「遊休化」させたかどうかにある。また前記(2)の「その利用が相当の期間にわたると認められること」の要件における「相当の期間」については、前記(1)の意味における建物等について、賦課期日現在を中心として半年、一年間さらには数年間の展望を含めて、その利用関係の実態を認定すべきである。つまり、相当の長期間にわたつて、当該土地の有効利用がなされようとされているかどうかが重要なのである。

二  被控訴人の主張

控訴人は、法六〇三条の二第一項一号及び施行令五四条の四七第一項の規定は、特別土地保有税の免除の対象となる土地の要件として、当該土地利用が「仮装」でないことを要求しているものにすぎないと主張する。しかしながら、特別土地保有税の免除の対象となる土地の認定にあたつて、「仮装」なる概念を用いる必要はないし、またその余地もないのである。すなわち、法六〇三条の二第一項一号は、特別土地保有税の免除の対象となる土地を、「その構造、利用状況等が恒久的な利用に供される建物又は構築物に係る基準として政令で定める基準に適合するものの敷地の用に供する土地」と規定し、施行令五四条の四七第一項は、右基準として、「その構造及び工法からみて仮設のものでないこと」(一号)、「その利用が相当の期間にわたると認められること」(二号)と規定しているのみである。このように、外形的かつ具体的に免除要件が定められているのは、そもそも、土地が未利用地であるか、あるいは有効に利用されているかの判定は、人それぞれによつて、また立場によつてとらえ方が異なるので、画一的かつ公平な取扱いを期するための課税技術上の要請が考慮されたことにほかならないのであるから、ことさら「仮装」なる概念を用いる必要はないし、またその余地もないのである。これらの規定を無視あるいは否定するかの如き控訴人の主張は、法律により画一的規制を受けるべき地方税の課税関係をいたずらに不安定ならしめるものであつて、到底容認できない。

また、控訴人は旧建物を取壊したとはいえ、本件免除認定期準日(昭和五五年一月一日)前からその利用方法については慎重に検討していたのであり、控訴人は、本件土地をいわゆる「遊休土地」とする意思はなく、事実一度も「遊休土地化」したことはなく、むしろ年間を通じて真摯に利用してきたのであるから、本件土地は、特別土地保有税の免除の法的保護を受けるに価するものである旨主張する。しかしながら、特別土地保有税の免除の対象となるための要件は、前述の規定に適合することのみであつて、ことさらに「遊休土地」などという概念を用いる余地はないのである。また、その認定は、前述の規定から明らかなように、建物又は構築物の外形により行うものであり、「遊休土地」とする意思の有無は何ら問わないものである。本件土地の場合にあつては、免除要件の判定対象となつているのは旧建物であるが、その旧建物は取得日(昭和五四年一二月二四日)以降一度も使用されることなく、昭和五五年一月一六日には取壊し工事に着手されたのであるから、前述の規定に照らしてみると、本件土地は、特別土地保有税の免除の対象土地たり得ないことは明らかである。

第三証拠関係<省略>

理由

一  控訴人が、昭和五五年五月三〇日付で被控訴人に対し、法(昭和五七年法律第一〇号による改正前のもの、以下同じ)六〇三条の二第一項に基づく特別土地保有税(保有分)免除の認定申請をなし、被控訴人が、同年八月一一日付で右申請を否認する旨の処分(本件処分)をなしたこと、本件処分の理由は、免除認定の基準日(昭和五五年一月一日)を中心とした本件土地上の建物の利用状況について、控訴人が昭和五四年一二月二四日の本件土地取得後右建物(旧建物)を積極的に利用しようとした形跡がないこと及び右基準日の直後である昭和五五年一月一六日から右建物の取壊し工事に着手していることにより、「その利用が相当の期間にわたると認められること」とする免除認定基準に適合しないというものであつたこと、控訴人が、同年九月二〇日付で広島市長に対し本件処分の審査請求をしたところ、広島市長が、同年一一月二〇日審査請求を棄却する旨の裁決をなしたことは当事者間に争いがない。

二  控訴人は、本件処分は違法であると主張するので、以下この点について判断する。

1  まず本件処分に至るまでの経過については、成立に争いのない甲第五、第六号証、乙第一、第二、第一四、第一六、第一七号証、原審証人菅原杢良の証言及び弁論の全趣旨により、成立の認められる甲第三、第四、第七号証、第八号証の一、二、第九、第一一号証、昭和五四年一二月から昭和五五年四月までの間における本件土地及び周辺の写真であると認められる甲第一二号証、本件土地の周辺の写真であると認められる甲第一三号証の一ないし五、原審証人菅原杢良の証言並びに弁論の全趣旨によれば、次のとおり認められる。

(一)  控訴人は、日産系の乗用車、同中古車を主体とする小型車及び大衆車の販売及び修理を目的とし、広島市西区三篠町三丁目に一八〇〇平方メートル余の土地を所有し、同所に本社、営業所を設けて営業を行なつていたが、控訴人の西営業所及び中古車センターを開設する必要上、訴外山陽日産デイーゼル株式会社(訴外会社)から合計面積三四〇〇平方メートル余の本件土地及び地上の旧建物を買受けることとなり、昭和五四年九月一〇日訴外会社との間で売買契約を締結した。売買代金は五億五〇〇〇万円で、同年一二月末日までに所有権移転登記を完了し、その後一か月以内に本件土地及び旧建物を引渡す旨の約定であつた。その後控訴人は、代金を完済した上、昭和五四年一二月二四日訴外会社から本件土地及び旧建物の所有権移転登記を経由し、翌二五日その引渡を受けた。

(二)  訴外会社は、日産系の大型及び中型トラツクの販売会社であり、従前本件土地に本社及び営業所を置いていたものであるところ、本件土地はほぼ正方形の形状の土地であつて、その南側部分に鉄筋コンクリート造陸屋根三階建の社屋が建築されていたほか、西側部分に鉄骨造スレート葺二階建の工場、北側部分に鉄骨造亜鉛メツキ鋼板葺平家建の作業場が建築され(旧建物。床面積合計約二〇〇〇平方メートル)、右三棟の建物に囲まれた空地部分は、コンクリート舗装され、洗車場、車検場等の付属施設が設けられていたほかは、納車前の車、修理待ちの車、修理の完了した車等の車両置場として使用されていた。なお、旧建物は、昭和三八年一〇月に建築され、その後訴外会社が引続き営業のため使用して来たものであつたが、訴外会社が広島市内吉島東へ移転することとなつたため、本件土地及び旧建物を売却することとなつたものである。前記売買契約後、訴外会社は、順次本件土地からの移転作業を行い、昭和五四年一二月一五日には最終的に移転を完了し、その後訴外会社名義の電話及び水道の使用も停止した上、前記のとおり控訴人への本件土地及び旧建物の引渡をなした。

(三)  控訴人は、前記売買契約前、売買の交渉が始まつた頃から、買受後における本件土地及び地上の旧建物の利用計画を検討していたが、訴外会社が大型及び中型トラツクの販売を中心としており、乗用車の販売を主体とする控訴人とは業種を異にするため、訴外会社が使用していた建物、施設をそのままの状態では利用できず、その構造を変更する必要があり、そこで控訴人は、旧建物の一部を改築して利用する方法と全面的に旧建物を取壊して建直す方法とを検討したが、最終的に昭和五五年一月一〇日頃訴外会社が使用していた旧建物の全部を撤去し、本件土地の西側一三〇〇平方メートル余の部分に事務所及びサービス工場を建築し、その余の部分を中古車展示場として使用する方針を決定した。

(四)  右決定に伴い、控訴人は、昭和五五年一月一六日には建設会社と解体工事の請負契約を締結して解体工事に着手し、同年二月二〇日頃これを完了し、その後同年三月一〇日過ぎまでに本件土地の東側約二〇〇〇平方メートルの部分をアスフアルト舗装して、この部分でとりあえず中古車センターを開業した。その後同年五月には、本件土地の西側部分に、営業所及び自動車修理工場用の鉄骨造二階建の建物(建築面積七六八平方メートル。以下新建物という。)の建築に着手し、同建築は同年九月二三日に完成し、控訴人は、同年一〇月一日、同建物で控訴人の西営業所を開設した。

(五)  控訴人は、本件土地の取得により、従前の所有土地と併せて、昭和五五年一月一日の基準日における所有土地が法五九五条の基準面積(五〇〇〇平方メートル)を超えることとなつたため、前記のとおり法六〇三条の二第一項に基づく特別土地保有税免除の認定申請をなし、これに対して本件処分がなされた。

以上のとおり認められ、右認定に反する証拠はない。

2  控訴人は、まず本件処分は、本件土地が法六〇三条の二第一項一号の建物の敷地の用に供する土地として免除認定の要件を具備する旨主張するので、この点について検討する。

(一)  昭和五三年法律第九号によつて設けられた特別土地保有税の納税義務の免除制度は、投機的土地取引の抑制や宅地供給の促進の観点から土地政策を税制面から補完するため創設された特別土地保有税について、社会通念上相当程度の利用がされている土地については、一旦成立した納税義務を免除することとして課税の合理化を図つたもので、特別土地保有税に関し例外的措置を認めたものであること、その具体的運用において徴税事務上各市町村間で不公平が生じてはならないことからして、免除の要件の該当性については、画一的、客観的に行われるべきであり、また法六〇三条の二第五項において準用する法五八六条四項によつて、免除の要件の有無を所定の基準日における現況によつて判定する旨定められていることからすれば、法六〇三条の二第一項一号による免除については、建物又は構築物の構造、利用状況等が所定の基準に適合するか否かを、基準日における外形的事実から客観的に判定されるべきものと解するのが相当である。換言すれば、本来基準日における事実以外の事実は斟酌できないものというべく、ただ基準日の前後の状況によつて基準日における外形的事実を解釈する際に参考となる補助的事実であるものについては、それを考慮することが許されるに過ぎないものというべきである。その意味で、例えば基準日現在において建設途中のものであつても、既に棟上げを終了し建物の外観を示す程度に至つている場合とか建物が一時的に特定の用途に供されることを停止しているに過ぎない場合は、免除認定の要件を充たすものといつて妨げない。

これを本件についていえば、基準日である昭和五五年一月一日当時においては、新建物は存在せず、建築工事にも着手されていなかつたのであるから、本件処分の適否を判断するに当つては、基準日当時に本件土地上に旧建物が存在していたことを前提として、免除認定の要件を具備するか否かを検討すべきであり、またこれをもつて足りるものというべきである。

控訴人は、旧建物の取壊しと新建物の建築が続いて行われ、両建物は効用的には同一性を有しており、これらの一連の行為自体が控訴人の事業活動であり、土地の有効利用の一形態であるとも主張しているが、新建物自体は旧建物とは全く別個の建物であり、しかも基準日には新建物は存在せず、着工もされていなかつたのであるから、控訴人の右主張は、法が基準日を設けてその時点の現況により免除の要件の有無を決定する制度をとつていることと矛盾するものであり、失当である。

(二)  そこで、本件においては、まず旧建物が法及び施行令の定める基準に適合するものであるか否かを判定することとなるが、前記認定の旧建物の構造等からすれば、旧建物が施行令五四条の四七第一項一号の基準(その構造及び工法からみて仮設のものでないこと)に該当することは明らかであるから、以下においては、旧建物が同項二号の基準(その利用が相当の期間にわたると認められること)に該当するものであるか否かを検討することとする。

ところで、施行令五四条の四七第一項二号が定める基準は、当該建物について建物自体としての利用が継続されていることを意味するが、この要件は建物が利用されず完全に放置されている場合や一時的、暫定的な利用に供されている場合を除外する趣旨から設けられたものと解されるので、継続的に利用されていた建物が基準日においてたまたまその利用がなされていなかつたという一事から直ちに免除の要件に欠けるものと断定するのは相当でない。むしろ当該建物が、仮設のものであつたり朽廃に近い状態のものであるときは格別、そうではなく、しかもこれまで継続的に利用されてきたものであつて、外形上、将来も十分に利用可能なものであるときは、利用されない期間が基準日以前の長期間にわたつているとか今後は利用されないことが外形的にも容易にうかがわれる(例えば、取壊し予定の看板が建てられている等)といつた事情がない限り、原則として「その利用が相当の期間にわたると認められること」という前記要件に欠けるとはいえないものというべきである。

このような観点から考えると、本件においては基準日の時点で旧建物は利用されていなかつたものであるが、前記認定の事実によれば、旧建物自体は、恒久的な構造を有し、なお相当期間利用に供し得た建物であつたものであり、また控訴人が本件土地及び旧建物を取得したのは前年の一二月二四日であつて、それまで旧建物は訴外会社によつて利用されていたことが明らかであり、さらに控訴人が本件土地及び旧建物を取得してから基準日まで約一週間に過ぎず、反面本件全証拠によつても基準日当時旧建物が利用されないことが外形的に明らかであつたことがうかがえないから、基準日当時旧建物については、「その利用が相当の期間にわたると認められること」という基準が充足されているものと考えるのが相当である。

被控訴人は、旧建物については当初から取壊し計画があり、基準日の半月後には取壊されていることから、旧建物の利用が相当の期間にわたるとはいえないと主張する。しかし、前記認定の事実によれば、控訴人が旧建物の取壊しを最終的に決断したのは基準日後の昭和五五年一月一〇日頃であるから、基準日当時旧建物が取壊されることが明らかであつたとはいえない。また仮に基準日前に取壊し計画が確定していたとしても、前記のとおり免除認定の要件の有無は基準日における外形的事実を基礎として判定されるべきものであるから、基準日当時取壊計画の確定が外形的にも客観的にも明らかであつたことが認められない本件においては、取壊計画の存否を考慮にいれることは許されないものというべきである。なお、旧建物の取壊計画というような納税義務者の主観的意思をたまたま課税庁が知つていたとしても、基準日における外形的事実から客観的に判明するものでない以上、免除の要件の有無を判断する上では考慮すべきものではないと考えられる。

(三)  以上のとおりであつて、本件土地は、基準日である昭和五五年一月一日の時点において、法六〇三条の二第一項一号、施行令五四条の四七第一項所定の要件を具備する建物の敷地の用に供されていたものであるということができる。

3  しかして、控訴人が本件土地について特別土地保有税の納税義務の免除を受けるためのその他の要件については、被控訴人において、これを欠く旨の主張をしておらず、弁論の全論旨によれば、他の要件は具備されているものと認められるから、控訴人の特別土地保有税免除申請に対しては免除認定がされるべきであつたものであり、これを否認した被控訴人の本件処分は、控訴人のその余の主張について判断するまでもなく、違法であり取消を免れないものといわなければならない。

三  よつて、本件控訴は理由があるから、原判決を取消した上控訴人の請求を認容することとし、訴訟費用の負担について民訴法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 森川憲明 滝口功 弘重一明)

原審判決の主文、事実及び理由

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一 請求の趣旨

1 被告が、原告に対し別紙目録記載の各土地につき昭和五五年八月一一日付でなした地方税法六〇三条の二第一項の規定に基づく免除認定申請に対する否認処分(広西課第七六六号)は、これを取消す。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

二 請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一 請求原因

1 本件処分の経緯等

(一)(1) 原告が、昭和五四年一二月二四日に取得した別紙目録記載の各土地(以下「本件土地」という。)について、昭和五五年五月三〇日付で被告に対してなした地方税法(以下「法」という。)六〇三条の二第一項の規定に基づく特別土地保有税免除認定申請に対して、被告は、同年八月一一日付(広西課第七六六号)で右申請を否認する旨の処分(以下「本件処分」という。)をなした。

(2) 本件処分の理由は、免除認定の基準日(昭和五五年一月一日)を中心とした本件土地上の建物の利用状況が、原告において右建物を取得してからこれを積極的に利用しようとした跡が見られないこと、および右基準日の直後である同月一六日から原告が右建物の取壊し工事に着工したことにより、「その利用が相当期間にわたると認められること」とする免除認定基準には適合しないことという点にある。

(二)(1) これに対して原告は、同年九月二〇日付で広島市長に対して本件処分に係る審査請求をなしたところ、広島市長は、同年一一月二〇日右審査請求を棄却する旨の裁決をした。

(2) 右裁決は、「法六〇三条の二第一項の規定に基づく特別土地保有税免除に適合するかどうかの判定は、同条五項(昭和五七年法第一〇号による改正前のもの、以下同じ。)において準用する同法五八六条四項の規定により、本件のような保有分にあつては当該年の一月一日の現況によることとされているから、右基準日現在政令で定める基準に適合する『建物または構築物』が存在し、それが利用されていて初めて相当水準の土地利用がされているものである。」との理由により原告の主張を排斥している。

2 本件処分の違法事由

しかしながら本件土地は、次に説明するように、法六〇三条の二第一項一号に規定する建物または構築物の敷地の用に供する土地(以下「その用に供する土地」という。)に該当し、仮にそうでないとしても同項二号の「特定施設の用に供する土地」に該当するから、本件処分は法の適用を誤つた違法な処分である。

(一) 本件土地等の利用状況について

(1) 原告は、昭和五四年一二月二四日本件土地をその地上建物(以下「旧建物」という。)とともに取得して以降、直ちに駐車場として利用したほか、旧建物の利用方法についてもあらゆる角度から検討した結果、修理、改築の方法によらず新築の方法を採用することにし、昭和五五年一月一六日旧建物の取壊し作業に入り、アスフアルト舗装などを終えた後、同年三月一四日、本件土地上において中古車センターを開業し、さらに同年五月一日本件土地を敷地として、同地上に原告会社西営業所建物の新築工事に着工し、同年九月二三日右工事を完成させ、同年一〇月一日には右営業所の営業を開始するに至つた。

(2) なお原告が、旧建物を収去して新築することを決定した事情は、次のとおりである。

本件土地および旧建物の前所有者である訴外山陽日産デイーゼル株式会社(以下「訴外会社」という。)は、大型および中型トラツクの販売会社であるのに対し、原告会社は、乗用車、同中古車の販売および修理が事業種目であつて、訴外会社とは営業種目、営業形態を全く異にするため、旧建物では非常に使い勝手が悪く、そのまま使用することは、乗用車販売店としての将来の営業発展にも影響すると考えたので、本件土地の取得前から原告会社内で慎重に検討し、新しい建物を建てて営業を開始するか、あるいは旧建物を一部改造のうえ使用するか協議を重ね、昭和五五年一月一〇日新築することに最終決定し、同月一六日より旧建物の取壊し工事にかかり、前記のとおりの利用状況に至つたものである。

(二) 法の適用について

(1) 法六〇三条の二第一項の規定を受けた地方税法施行令(以下「施行令」という。)五四条の四七の各項に規定する「その利用が相当の期間にわたる」(同条一項二号)とは、基準日(本件土地が法六〇三条の二第一項および施行令五四条の四七に該当するかどうかの判定は、法六〇三条の二第五項において準用する法五八六条四項の規定により申告納付すべき年の一月一日の現況によることとされている。以下、右一月一日のことを「基準日」という。)以降引続いてその建物を利用する場合と、本件のように基準日においては恒久的な建物が存在していてその年の中途に取壊し、その後直ちに新しい恒久的な建物を新築する場合のいずれの場合も包合するものと解すべきである。

(2) 特別土地保有税制度は、遊休地、いわゆる土地ころがしの防止をその立法趣旨とするものであるところ、法六〇三条の二第一項に規定する「計画的な土地利用に適合する」か否かが特別土地保有税免除の実体的な要件とされ、その徴表的事実として地上の建物もしくは構築物または工場施設、競技場施設その他の施設(以下「建物等」という。)が問題となる。そこで仮に、地上の建物等の取壊しを予定していても、直ちに代替すべき地上の建物等の新築計画があり、その準備が具体的に行われている場合は、地上の建物等が取壊されない場合と比べて、「その用に供する土地」に価値の差はない。

(3) 元来特別土地保有税の免除制度の適用については、土地が有効に利用されていることが、客観的、外形的に認定できればよいのであり、取壊し前の建物と新築建物が物理的に同一である必要はなく、税法の目的に照らして価値的に同一性ある建物等として継続する限り、有効な土地利用目的に何ら差異はない。

(4) 本件処分は、基準日現在、本件土地上の建物を一時的にしろ利用を停止していたことを重視しているが、本件土地は、取得者である原告においてその利用方法を検討しながら旧建物内に必要な維持管理をしていたのであるから、一時的に建物としての利用が停止されていたとしても、前述のような事情からすれば、「その用に供する土地」に該当し、免除の対象とすべきものである。また、建物の改築等により、単に一時的に特定の用途に供することが停止されているに過ぎない場合においては、これを利用期間に含めるべきであるから、建物の改築ではないとの理由で建物の新築を除外するのは相当でない。このような場合は、取得者における土地利用の観点から観察して、地上建物を取壊す予定のもとに何らの維持管理を行わず、かつ取壊し後の土地利用に関する具体的計画のない場合とは本質的に異るというべきである。本件の場合、昭和五四年一二月二四日に本件土地と旧建物を購入取得してから一〇日も経過しない基準日において、現実の具体的利用を期待すること自体、社会通念上無理な事柄といわざるをえない。原告は、一日二〇万円以上の金利負担を伴う多額の投資によつて取得した土地、建物である以上、土地利用を放任することは不可能であり、結果的に旧建物を取壊した事実を余りにも形式的に観察した本件処分および裁決は、明らかに法の解釈を誤つたものである。

(三) 基準日の問題について

(1) 免除認定にあつては、基準日現在の一時的な現況のみによつて免除の認定をすべきでなく、当該基準日を中心とする一定の期間における土地の利用状況を勘案して行うべきである。そしてその一定の期間は、施行令五四条の四七第一項二号に「その利用が相当の期間にわたると認められること」と規定されているところの相当の期間と一致するものであり、本件においては基準日である昭和五五年一月一日から特別土地保有税の申告納付期限である同年五月三一日までの期間をいうと解すべきである。もし、基準日現在の現況の把握のみで判断するならば、仮に一月一日にその土地を利用していても、五日後または一〇日後において建物等を取壊し、その後一切その土地を利用していない場合であつても、基準日の一月一日だけその土地を利用してさえいれば、免除規定に該当することとなり、施行令五四条の四七第一項二号の「その利用が相当の期間にわたると認められること」と一致しないことになり、地方税法の立法目的に反することになるからである。

(2) また、本件土地のように、単に建物の敷地としてのみ利用するのではなく、他の用途(露天の路面に車を駐車させて展示するためとか)にも利用する場合、単に建物のみの工事の施行がどの程度進捗しているか否かを考えるだけでは不十分で、整地作業、アスフアルト舗装、中古車センター開業などの一連の工事の施行状況をも勘案して考えるべきである。したがつて、本件の場合、被告は、五月三一日の申告納付期限までの土地利用状況を総合的に勘案して保有税免除の要否を判断すべきである。

(四) 本件土地は、法六〇三条の二第一項一号の「構築物の敷地の用に供する土地」でもある。

(1) 同号の構築物の意義

同号の構築物とは、法人税法および所得税法における構築物と同義であり、具体的には、塔、軌道、ドツク、貯水池、坑道その他土地に定着する土木設備をいうと言われており、例えば構内舗装も構築物に含まれるものである。

(2) 右構築物の利用状況等

ア 原告は、昭和五四年一二月二四日訴外会社から本件土地および旧建物のほか、構築物である構内舗装を取得し、直ちにそのコンクリート舗装広場に中古車二〇台あまりを昭和五五年一月一六日まで駐車させて本件土地を利用していたし、その後の旧建物の解体および新築工事に際しても、構築物についてはできるだけ従来のものをそのまま利用しているし、従来のコンクリート舗装は、アスフアルト舗装の基礎として使用しており取り除いてはいない。

イ 右コンクリート舗装は、訴外会社が昭和三八年九月に、旧建物と同時に構築したものであり、同社の減価償却明細表に、名称を「コウナイホソウ(構内舗装)」、取得価格を三五九万六八〇〇円、取得年月を昭和三八年九月、耐用年数を一五年として掲載されていた。

右の構築物の解釈および事実関係からするならば本件は、構築物の利用が「相当の期間にわたると認められること」に該当する。

(五) 本件土地は法六〇三条の二第一項二号に規定する「特定施設の用に供する土地」でもある。

(1) 同項の特定施設の意義

同項に規定されている特定施設とは、建物、構築物とその他の工作物およびこれらと一体的に利用されている土地により構成されているものをいい、工場施設、競技施設はその例示である。この場合、建物または構築物の敷地としてのみ利用されているものではなく、これに関連する他の用途にも利用され、当該建物または構築物と一体となつて一定の効用を果たしている場合には、これら全体を一の特定施設として把握すべきである。そして、工場施設等の特定施設内の空地を駐車場として利用している場合は、特別の工作物が設けられていない場合でも、継続的に利用され、その利用の程度につき、ピーク時における駐車台数が、収容定数のおおむね五割以上であるとの水準に達すると認められるときは、当該特定施設の一部として特別土地保有税免除の対象とすべきであると解されている(昭和五三年四月一日付各都道府県総務部長、東京都総務・主税局長あて自治省固定資産課長内簡((以下「内簡」という。)))。

(2)本件土地における特定施設の利用状況

本件土地は、その中央部分に存するコンクリート舗装した空地部分が広く、訴外会社が右空地部分を、納車前の車、修理を待つ車、修理が完了した車の車両置場として利用していたので、原告も昭和五四年一二月二四日本件土地を取得すると同時に事務所と車検場を除いた部分全体にわたつて中古車二〇台余りを駐車させて在庫管理していたものであつて、その利用は相当の期間にわたると認められるものであつた。

3 以上の各理由により、本件土地は、法六〇三条の二第一項の規定から特別土地保有税の免除の対象となるべきところ、本件処分は、原告の免除認定申請に対し、本件土地が右免除認定基準に適合しないとしてこれを否認した点において違法である。

よつて、原告は、本件処分の取消を求める。

二 請求原因に対する認否

1 請求原因1は認める。

2 その余の請求原因事実はすべて争う。

三 被告の主張

1 本件土地についての特別土地保有税に係る免除認定申請(以下「本件申請」という。)に対して被告がこれを否認した理由

(一) 本件土地についての特別土地保有税は、基準面積以上の土地を所有する者に係る土地に対して課するもの(法五九九条一項一号の特別土地保有税)であり、したがつて、本件土地が法六〇三条の二第一項および施行令五四条の四七に該当するかどうかの判定は、法六〇三条の二第五項において準用する法五八六条四項の規定により申告納付すべき日の属する年の一月一日の現況によることとされる。よつて本件土地にかかる免除認定の基準日は、昭和五五年一月一日である。

(二) ところで、本件土地には基準日現在、事務所、修理工場その他三棟の旧建物が建てられていた。そこで、被告は、基準日を中心としたその前後の旧建物の状況を調査したが、それは次のとおりであつた。

(1) 原告において旧建物を取得した昭和五四年一二月二四日以後、その取壊工事に着手するまでの間において旧建物を現実に利用した形跡がなかつた。

(2) 旧建物は、昭和五五年一月一六日には取壊工事に着手し、同年二月二五日にはこれが完了した。

(3) 原告は、本件土地を取得する以前から旧建物を取壊し、新しい建物を建設する計画を有していた。すなわち、昭和五四年四月から建物の新築について広島市担当課と協議を進め、また新しい建物は自動車修理工場の部分に規定以上の空気圧縮機を使用するため、建築基準法四八条三項の規定に基づく特定行政庁の許可を得ることに関連し、同年九月中旬頃から付近の住民に対し、建設のための同意を求めていた。

(4) 本件土地内には、同年一二月一八日から昭和五五年三月一一日まで、臨時電話も含めて電話は設置されていなかつた。

(5) また本件土地内において昭和五四年一二月二五日から昭和五五年二月二七日まで、上水道は使用されていなかつた。

(三) 以上の事実から、旧建物は、そもそも取壊すことを前提に原告はこれを取得したものであり、したがつて、基準日現在においてはその利用がなされていなかつたのみならず、さらに将来に向つても、旧建物自体を利用する意思を原告は有していなかつたと認められ、また、現に利用することなく取壊されているものである。

したがつて、旧建物は明らかに施行令五四条の四七に定める「その利用が相当の期間にわたると認められること」の要件を満たさないものであると判断された。

(四) そして、同年七月二六日に広島市特別土地保有税審議会に本件を諮つたところ、右審議会も本件申請は否認すべきであるとの答申を行つた。

(五) そこで、被告としては、本件申請を否認することとし、同年八月一一日付広西課第七六六号をもつて、その旨通知したものである。

2 特別土地保有税に係る納税義務の免除制度について

(一) 特別土地保有税は、投機的土地取引の抑制と宅地供給促進の観点から、昭和四八年度の税制改正により創設されたものであり、昭和四四年一月一日以後に取得された一定面積以上の土地または昭和四八年七月一日以後の一定面積以上の土地の取得に対し、その土地の所在する市町村において課する税金である。

(二) そして、特別土地保有税は、当初、昭和四四年一月一日以降に取得された土地に対して、原則としてその利用状況の如何を問わず、一律に、あるいは無差別的に課税するしくみがとられてきた。このような一律課税のしくみが採用されたのは、<1>土地税制としての目的からは、いわゆる「未利用地税」構想がこれに適合する望ましい方式と一応は考えられるものの、たとえば国土利用計画法のような土地利用規制に関する総合的な立法が当時においては存しなかつたこと、また全国土をおおう包括的な、そして具体的な詳細な、あるべき土地利用を指し示す基準ないし計画がなく、課税当局による未利用地の認定等が技術的に極めて困難であること等の事情により、「未利用地税」構想を採用するに至らなかつたこと、<2>さらには、当時においては、金融面におけるいわゆる過剰流動性もその要因の一つに挙げられようが、異常な土地の買占めとこれに伴う急激な地価の上昇の傾向が顕著であり、広く一般的にできるだけ強力かつ急速にこれらの傾向を抑制する観点から、昭和四四年以降の新規取得土地について一律課税を行う必要があつたことによるものである。

(三) しかしながら、その後において、土地の取引活動や地価の動向が、往時に比べて鎮静化の傾向を示し、また、国土利用計画法の施行にみられる如く土地利用あるいは土地取引規制に関する諸制度の整備が進むなど、創設当時とはその環境条件において、かなりの変化が生じた。そこで、その特別土地保有税をとりまく環境条件の変化を考慮し、すでに社会通念上からも相当水準の利用が行われ、最終的な需要に供されていると考えられる土地に対してまで、課税されることは適当であるとはいえないとの批判が生じてきた。しかしまた、現状においては依然として、「未利用地税」構想を採用するに足る課税技術上の条件は熟しておらず、ある土地が未利用地であるかまたは有効利用されている土地であるかの判定は、人それぞれによつて、また立場によつて、とらえ方がまちまちであり、認識にきわだつた差異があつて、非常に困難を極めた。そこで、このような事情にかんがみ、いわば外形的な基準にのつとり、かつ、個別具体的に課税団体の認定にかからしめるような方法により、新たな免除制度を創設することを通じて課税の合理化を図ることとされた。それが、昭和五三年度の特別土地保有税の制度改正により実施された本件免除制度である。

(四) そして、ある土地が利用されているかどうかは、当該土地上に建物等が存在するか否か、そして建物等が恒久的な利用に供されているか否かの外形的な基準によつて判断することとされたのである(法六〇三条の二第一項一号、二号、施行令五四条の四七)。

3 原告の主張に対する反論

(一) 法の適用について

(1) 免除対象土地の判定は、法六〇三条の二第一項一号が「事務所、店舗その他の建物又は構築物で、その構造、利用状況等が恒久的な利用に供される建物又は構築物に係る基準として政令で定める基準に適合するものの敷地の用に供する土地」と規定していることから明らかなように土地の上に存する建物等によつて行われるものであり、しかも同号に該当する土地であるかどうかの判定は、申告納付すべき日の属する年の一月一日または七月一日(以下「基準日」という。)の現況による(同条五項、法五八六条四項)のであるから、土地自体が右基準日現在の有姿で判定される以上、当該土地に所在する建物等もまた基準日現在に存在するところのものでなければならず、その後に新築される建物等であつてはならないこと明白である。

(2) したがつて、施行令で定める基準の「その利用が相当の期間にわたると認められること」というときの「その」とは、基準日現在存在するところの建物等を指すことは疑いを入れない。

(3) また、旧建物は、取壊されることによつて、旧建物について「建物自体としての利用」は永久に不可能となるから、その後の利用を予定して「……単に一時的に特定の用途に供されることが停止されているに過ぎない場合においては、これを利用期間に含めるべきものである。」とする昭和五三年四月一日付自治固第三八号各道府県総務部長、東京都総務・主税局長あて自治省税務局長通達(以下「通達」という。)において説示された場合には該当しない。

(二) 基準日について

(1) 納税義務の免除の認定の基準日は、土地に対して課する特別土地保有税(本件のごとく保有分)にあつては一月一日、土地の取得に対して課する特別土地保有税(取得分)にあつては一月一日または七月一日(これらの日前に土地が他の者に譲渡されている場合は、当該譲渡の日)であるが(法六〇三条の二第五項、五八六条四項)、通達によれば当該免除認定を行うにあたつては、基準日現在の一時的な現況のみによつて免除の認定をすべきものではなく、当該基準日を中心とする一定の期間における土地の利用状況を勘案して行うべきものとされている。この通達は、基準日現在の現況を明らかにするためにはその前後の土地利用状況を勘案せよというもので、あくまでも基準日現在の現況の把握に正確を期するという趣旨に出ずるものである。そのように解すると基準日を中心とする「一定の期間」は、基準日現在の現況の把握に必要な期間であれば足り、基準日で判定しようとした法律の規定が無意味となるような、原告が主張するがごとき長期間であつてはならない。

(2) また、原告の主張が失当であることは、次のように取得分の取扱いを想定してみれば明らかである。すなわち、仮に原告が本件土地の取得日に五〇〇〇平方メートル以上の土地を取得した場合には(立法過程で当然そのようなケースは想定されている。)、昭和五五年二月二九日までに取得分を、同年五月三一日までに保有分の税額等を申告するとともに、それぞれ免除認定申請をすることとなる。

その場合、免除認定の基準日は、取得分、保有分ともに昭和五五年一月一日の同一日となる。そこで、取得分の免除認定における基準日を中心とする「一定の期間」は、原告主張の理屈でいつても申告納付期限である二月二九日までの二か月間ということになる。そうすると取得分、保有分の違いはあつても、全く同一日の現況で判定する以上、取得分について二か月間の利用状況により判定が可能であり、また既に判定は済んでいることになるから保有分についてことさら五月三一日までの期間でなければならない理由はない。

(3) なお、原告が拠りどころとしている申告納付期限は、本税の税額計算など課税上の都合を考慮して定められたものであり、納税義務免除制度における基準日の取扱い上の「一定の期間」とは、何らの関連性をも有しない。すなわち、保有分の申告納付期限は、昭和四八年に特別土地保有税が創設された当初から五月三一日とされているが、それは本税の税額の算定にあたり、控除すべき固定資産税相当額の基礎となる固定資産税の課税標準となるべき価格等が、固定資産課税台帳の縦覧期間(原則として毎年三月一日から三月二〇日まで)以前には確定しないこと、固定資産税の第一期の納期が四月中であること等を考慮して定められたからである。

(三) 原告主張のように、本件土地上に法六〇三条の二第一項にいう構築物または特定施設が存していたか否かについて

(1) 基準日現在、本件土地は前所有者から取得したままの状態で、原告によつて何ら手を加えられたものではなかつたから、建物自体は事務所、修理工場、車検場としての用途に供されうる状態にあり、当該建物の敷地として、そして、空地部分は、納車前の車、修理を待つ車、修理が完了した車の車両置場あるいは来客用の駐車用空地として利用される状態にあつた。

そうすると、コンクリート舗装広場は、そもそも旧建物の利用と切り離して考えるべきではなく、建物を利用する場合の附属施設として、つまり建物の利用を主とした場合の従たる関係にあつたものであるから、これを全体として一つの利用形態としてとらえるべきであるが、本件土地に占める建物の建築面積の割合等からみて、コンクリート舗装広場を含む本件土地全体を建物の敷地としてみる他ないものである。

(2) なお、仮に本件土地全体が建物を主たる構成要素とする特定施設の用に供する土地に該当するとしても、主たる利用に供されるべきところの建物が取壊し予定にあり、また現に利用されることなく取壊されたものである以上、施行令五四条の四七第二項各号のいずれにも該当しない。したがつて、附属施設たる駐車場の利用の有無にかかわらず、本件土地は免除対象とはならない。

(3) さらに、仮に、本件土地全体が駐車場の利用を主たる目的とする特定施設の用に供する土地に該当するとしても、この場合の免除の可否は、次に述べる「建物の利用とは切り離して独立した駐車場の用途として考えた場合」と同様の結論になる。

(4) 一方、コンクリート舗装広場を建物の利用とは切り離して独立した駐車場の用途として考えることが仮に可能であるとすれば、むしろこれを駐車場たる特定施設とみるのが妥当である。

その場合、特定施設として免除対象となるかどうかについてであるが、まず、構築物たるコンクリート舗装は利用されることなく取壊された(原告は、取除かずそのまま利用したと主張するが、そもそもアスフアルト舗装に全面的にやり替えており、また取り除いていない部分があつたとしても、基準日後新設のアスフアルト舗装の単に基礎の素材の一部へと変質しているもので、これをもつて引き続きコンクリート舗装自体を利用したとは、社会通念上認められるものではない。)ものであるから、基準日現在存在するところのコンクリート舗装自体としての利用が相当の期間にわたると認めることはできなかつたものである。

(5) さらに、免除対象となる整備水準、管理状況の基準についても、具体的認定要件である「ア 一定の工作物により駐車場の範囲が特定され……」たものではなく、「イ 継続的に駐車場として利用されており、かつ、適切な管理が行われていること」にも該当しなかつたから、免除対象とはならない。

(6) なお、内簡には「工場施設等の特定施設内の空地を駐車場として利用している場合は、特別の工作物が設けられていない場合でも継続的に利用され、……特定施設の一部として対象とすべきものである。」と記載されている。しかし、この内簡は当該駐車場部分を含む全体を特定施設とした場合における取扱いであつて、もともと工場施設等の利用に付随して利用される駐車場に特別の工作物が不要とするものであつて、本件駐車用空地のごとく建物の利用とは切り離して独立したものと考えられるときにはその前提を欠くものであり、内簡の適用を受けないものである。

第三証拠

当事者双方が、提出、援用した証拠関係は、本件訴訟記録に編綴されている書証目録および証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一1 請求原因1記載のとおりの経過で本件処分および広島市長の裁決がなされたことは、当事者間に争いがない。

2 いずれも成立に争いのない乙第三、第四号証、証人日戸義昭の証言によれば、本件処分に際し、昭和五五年七月二六日広島市長が本件免除認定申請について、広島市特別土地保有税審議会へ諮問したところ、右審議会は、本件申請を否認するのが相当であるとの答申を行つたことが認められ、これに反する証拠はない。

二 そこで進んで、本件処分に原告主張のような違法事由(請求原因2)が存するか否かについて検討する

1 本件土地が法六〇三条の二第一項一号に規定する建物の敷地の用に供する土地であるとの主張について

(一)(1) 弁論の全趣旨によれば、原告が昭和五四年一二月二四日本件土地を旧建物とともに取得し、昭和五五年一月一六日旧建物の取壊し作業に入り、アスフアルト舗装などを終えた後、同年三月一四日本件土地上において中古車センターを開業し、さらに同年五月一日本件土地上において、原告会社広島西営業所新築工事に着工し、同年九月二三日右工事を完成させ、同年一〇月一日に右営業所の営業を開始するに至つたことを認めることができ、右認定に反する証拠はない。

(2) 証人菅原杢良の証言により真正に成立したことの認められる甲第四号証、成立に争いのない乙第一六号証、証人菅原杢良(但し後記措信しない部分を除く。)、同日戸義昭の各証言ならびに弁論の全趣旨を総合すれば、原告は訴外会社から本件土地およびその地上の旧建物を買い受けた際、当初から旧建物は取り壊す予定であつたこと、および昭和五五年一月一日を中心としたその前後の旧建物の利用状況は、被告の主張1(二)記載のとおりであつたことが認められ、右認定に反する証人菅原杢良および同讃岐義太郎の各証言の一部は前掲各証拠に照らしにわかに措信することができず、また甲第一四号証(証人讃岐義太郎の証言により真正に成立したことが認められる。)および乙第一七号証(その成立については当事者間に争いがない。)中右認定に反する記載部分は採用し難く、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(二) つぎに原告は、旧建物取壊後まもなく新建物が本件土地上に建築されたことから、基準日後に建築された新建物も基準日現在存在していた旧建物と価値的に同一性があるため新建物の利用状況をも考慮して、法六〇三条の二第一項一号および施行令五四条の四七に該当するか否かの判定をすべきであると主張する。

(1) しかしながら、「新旧建物の価値的な同一性」という概念自体極めて不明確であつて、「新旧建物の価値的同一性」を問題にするとすれば、その判断のためには、新築の計画、新旧建物のそれぞれの利用目的その他種々の主観的要素を含む極めて微妙な事情をも調査検討しなければならず、特別土地保有税の免除認定を外形的な基準により、また比較的認定の容易な事実に基づいて判断させようとした法の趣旨に明らかに反することにもなるので、原告の右主張は採用できない。

(2) されば、本件土地が法六〇三条の二第一項一号、施行令五四条の四七第一項に該当するか否かは、旧建物の利用の外形によつて判定するのが相当であるところ、本件土地の特別土地保有税の基準日(保有分)である昭和五五年一月一日を中心としたその前後の旧建物の利用状況は前認定のとおりであるから、旧建物は、施行令五四条の四七第一項二号に規定する「その利用が相当の期間にわたると認められること」との要件に該当しないものといわざるをえない。

(三) 更に原告は、本件の場合は、建物の利用が増改築等により一時的に停止されている場合と同様に判断すべきであると主張するが、新築は、建物の物理的同一性の存する増改築とは異なり、新旧両建物間にその同一性が認められないので、改築の場合と同様に扱うことはできない。

(四) また、原告は、免除認定にあたつては、基準日現在の一時的な現況のみによつて免除の認定をすべきではなく、施行令五四条の四七第一項二号に規定されている「相当の期間」(本件では昭和五五年一月一日から特別土地保有税の申告納付期限である同年五月三一日まで)における土地の利用状況を勘案して行うべきであると主張する。よつてこの点につき検討するに、

(1) 特別土地保有税の免除認定は、法六〇三条の二第五項において準用する法五八六条四項の規定する基準日においてするとした法の趣旨は、「その利用が相当の期間にわたる」かどうかという将来の事実を、その将来の時点が来るまで待たないで、基準日(およびその前後の一定の期間)において認められた諸事情に基づき画一的に判定することにあり、また通達において、「第二納税義務の免除の対象となる土地の五 免除認定の基準日」に記載されている「基準日を中心とする一定の期間」とは、特別土地保有税免除認定を画一的に基準日における現況で判定することとした法の趣旨からみて、基準日における現況を把握するのに必要な期間のことをいうと解すべきであるから、本件においては、原告が旧建物を取得した昭和五四年一二月二四日から旧建物の取壊しに着手した昭和五五年一月一六日までの期間における旧建物の利用状況を調査、検討すれば足りると解するのが相当である。

(2) したがつて、被告が右期間における旧建物の利用状況の調査に基づいて、右建物が施行令五四条の四七第一項二号の要件を満たさないと判断した点に違法はない。

2 本件土地が法六〇三条の二第一項一号に規定する構築物の敷地の用に供する土地であるとの主張および本件土地が同項二号に規定する特定施設の用に供する土地であるとする原告の主張について

(一) いずれも証人菅原杢良の証言により真正に成立したことの認められる甲第八号証の一、第九号証、いずれも成立に争いのない乙第三、第四号証および同証人の証言ならびに弁論の全趣旨を総合すれば、基準日である昭和五五年一月一日前後の本件土地の状態は、訴外会社がこれを所有していた時の状態のままであり、同会社は旧建物を事務所、修理工場、車検場としての用途に供していたこと、コンクリート舗装された空地部分は、納車前の車、修理を待つ車、修理が完了した車の車両置場として利用されていたこと、本件土地(三四〇四・五三平方メートル)に占める旧建物の建築面積(一四四九・二九平方メートル)の割合は四五・二パーセントであつたこと、本件土地が所在する地域は、都市計画法上の住居地域であり建ぺい率が六〇パーセント以下と定められていることをそれぞれ認めることができ、これに反する証拠はない。

(二) そこで右各事実を更に総合して本件を検討するに

(1) 本件土地においては、旧建物の建ぺい率が相当高いことから旧建物の敷地としての性格が強く、またコンクリートの舗装広場も旧建物の利用と密接不可分の関係において利用されていたことから、旧建物の附属施設とみるべきであり、結局本件土地は、全体としては、旧建物の敷地として評価するのが相当である。したがつて、本件土地が駐車場たる構築物の敷地の用に供する土地として法六〇三条の二第一項一号に該当するとする原告の主張は、これを採用することができない。

(2) なお、所得税法および法人税法(減価償却資産の耐用年数等に関する省令((昭和四〇年三月三一日大蔵省令第一五号)))上、コンクリート舗装広場が構築物として扱われるとしても、これは資産としての観点から構築物として扱われるのであつて、特別土地保有税の免除においては、これを土地利用状況の観点から判断すべきものであるから、本件コンクリート舗装広場を、特別土地保有税免除の可否の判定に当り独立の構築物としてではなく、旧建物の附属施設として扱うことは、何ら右省令と矛盾するものではない。

(3) また仮に、本件土地全体が法六〇三条の二第一項二号に規定する特定施設に該当するとしても、訴外会社における利用状況や旧建物の建築面積の割合等からみて、旧建物が特定施設の主たる構成要素となつているとみるべきである。

(4) そうすると、本件においてはいずれにしても基準日である昭和五五年一月一日における旧建物の利用状況によつて本件土地が法六〇三条の二第一項一号、二号、施行令五四条の四七第一項、二項に該当するかどうか判断すべきところ、前認定のとおり、右基準日において旧建物は利用されておらず、その後利用されることなく昭和五五年一月一六日には取壊しに着手しているので、その余の点(コンクリート舗装広場に二〇台余りの中古車を駐車させて在庫管理していたかどうか)について判断するまでもなく、本件土地は法六〇三条の二第一項一号に規定する構築物の敷地の用に供する土地および同項二号に規定する特定施設の用に供する土地には該当しないといわざるをえない。

3 また原告は、特別土地保有税の免除認定の判断が、可能な外形的基準によらざるをえなかつたとしても、原告は、本件土地の購入時点から立派な利用目的と利用計画を有していたものであり、投機目的でないことは、原告が本件土地を取得してから次々と土地を利用するため施設を施し、一日たりとも遊休な土地として放置していなかつた基準日以降の推移およびその現況をみれば、一見して極めて明白であると主張する。

しかしながら、特別土地保有税の免除認定は、公平で法的安定性の保障された課税を実現するための課税技術上の要請から基準日における当該土地および建物等の現況に基づいて行うべきであるから、原告主張のような本件土地の利用計画があり、それが基準日の経過後実行に移されたとしても、これは基準日における本件土地やその上の建物等の現況(外形的に判断できる範囲の)に影響を与えるものでない以上、本件においては、前述のとおり本件土地が法六〇三条の二第一項の規定による特別土地保有税免除の対象にならないと判断されてもやむをえないところである。

三 以上の説示によれば、本件処分に違法はなく、原告の本訴請求は、理由がないから失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

別紙目録<省略>

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